「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」は、経済産業省が2025年2月に公表した、AIサービスを利用・開発するときの契約で確認したい項目をまとめた資料です。法務担当者が条項を検討する場面と、事業部門の担当者が契約前に最初の検討をする場面の両方を想定しています。
この記事では、チェックリストの構成、利用型と開発型の契約で確認する項目の違い、利用規約や契約書に当てはめる手順を、例とあわせて紹介します。公式資料は経済産業省のサイトで公開されています(「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を取りまとめました|経済産業省)。
AIの利用・開発に関する契約チェックリストとは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表 | 経済産業省、2025年2月18日(同月20日に図9を差し替え) |
| 目的 | AIサービスの利用者が、提供するデータの利用範囲や、生成物の利用条件などの契約上の条件を確認できるようにする |
| 想定読者 | ①社内法務・顧問弁護士等が条項を具体的に検討する場面 ②事業部門の担当者等が契約を最初に検討する場面 |
| 対象 | 利用型契約と開発型契約(違いは次の節で説明します) |
| 構成 | 背景・想定読者/対象とするユースケース/チェックリスト本体(インプットA、アウトプットB)/チェックリストを活用するうえでの留意点 |
| 位置づけ | 法令ではなく、契約を検討するための参考資料。条項の最終的な判断は法務や専門家が行う |
経済産業省は2018年に「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を公表していますが、これはAIモデルの開発を中心にした資料でした。生成AIサービスの普及で、開発だけでなく利用の場面でも契約の重要性が高まったことから、AIや法務に詳しくない事業者も使える形で取りまとめられたのがこのチェックリストです。
チェックリストの各項目には、確認する問いである「チェックポイント」、補足の「備考」、契約条件を変えられない場合に取れる「事実上取り得る対応(契約締結断念を除く)」が並んでいます。条文を自分で書くことは難しいが、契約の項目立ては理解できる担当者でも読み進められる構成です。
対象になる契約:利用型と開発型の違い
チェックリストは、AIサービスの使い方を3つの類型に分けています。
- 類型1:汎用的AIサービス利用型 事業者が提供する汎用的なAIサービスをそのまま使う。例:顧客の購入履歴をプロンプトとして入力し、嗜好の分析結果を得る
- 類型2:カスタマイズ型 汎用的なAIサービスに、提供事業者が自社向けの機能を組み合わせたサービスを使う。例:自社の製品に特化したAIチャットボットを提供事業者に作ってもらう
- 類型3:新規開発型 開発事業者と提携して独自のAIシステムを開発・利用する。例:製品の稼働データから異常を早期に見つけるシステムを開発する
類型1の契約を「利用型契約」、類型2・3のように開発を伴う契約を「開発型契約」と呼んでいます。
| 利用型契約 | 開発型契約 | |
|---|---|---|
| 公式の類型 | 類型1 | 類型2・類型3 |
| 契約書の形(一般的な傾向) | 事業者が用意した利用規約に同意する形が多く、条項を個別に交渉するのは難しい | 個別に契約書を作り、交渉する |
| 読む範囲 | 開発型のアイコンが付いた項目を読まなくても、主な条件をひととおり確認できる(公式資料3.1) | 全項目。特に処理成果(A-6/B-6)と、開発型に関する留意点(公式資料4.3) |
チェックリストでは、AIサービスを提供する側を「ベンダ」、利用する側を「ユーザ」と呼びます。同じ会社でも、相手によってベンダにもユーザにもなります。この点は後の例2で扱います。
チェックリストで確認する項目
チェックリスト本体は、ユーザがベンダへ渡す「インプット(A)」と、ベンダから受け取る「アウトプット(B)」に分かれています。インプットにはプロンプトや学習用の生データ、アウトプットにはAIの生成物やAIシステムなどの成果物が含まれます。
AとBは分類の名前が似ていますが、確認の向きが違います。A側では、ベンダが受け取ったインプットをどう扱うかを確認します。B側では、ベンダが何をどう提供するかと、ユーザがアウトプットをどう使えるかを確認します。
表の「確認する内容」は公式資料の要約、「参照する契約や資料」は本記事による例です。ページ番号は公式PDFに印刷された番号です。
インプット(A):ユーザがベンダへ提供する情報
| 公式の分類(ページ) | 確認する内容 | 参照する契約や資料(例) |
|---|---|---|
| A-1 特定(p.12) | インプットの定義に、契約で守る必要のある情報が含まれているか | 利用規約・契約書の定義条項 |
| A-2 ベンダへの提供(p.12〜13) | ユーザに提供の義務や条件があるか、インプットについてユーザが保証を求められるか | 利用規約、個別契約 |
| A-3 使用・利用(p.14〜16) | ベンダによる利用目的・利用条件(学習など、サービス提供以外の利用を含む)、管理・セキュリティ、保持期間・消去 | データの取扱いに関する規定、管理画面の設定 |
| A-4 外部提供(p.16〜17) | ベンダからユーザへのインプットの提供、ベンダによる第三者提供の可否と条件 | 利用規約、秘密保持条項 |
| A-5 権利帰属(p.17) | インプットの権利がベンダに移転するか | 知的財産に関する条項 |
| A-6 インプット処理成果(p.18) | インプットから作られた学習用データ・中間生成物などの特定、利用、外部提供、権利帰属 | 主に開発契約 |
アウトプット(B):ベンダからユーザへ提供される生成物・成果物
| 公式の分類(ページ) | 確認する内容 | 参照する契約や資料(例) |
|---|---|---|
| B-1 特定(p.19) | アウトプットの定義が、ユーザの利用目的をカバーしているか | 契約書の定義条項、仕様書 |
| B-2 ユーザへの提供(p.19〜20) | ベンダの完成義務、提供義務と条件、アウトプットについてのベンダの保証 | 開発契約の検収・保証条項、利用規約の非保証条項 |
| B-3 使用・利用(p.21) | ユーザによるアウトプットの利用目的・利用条件、ユーザの管理・消去義務 | 利用規約、利用ポリシー |
| B-4 外部提供(p.22) | ユーザがアウトプットを第三者に提供できるか、その条件 | 利用規約、秘密保持条項 |
| B-5 権利帰属(p.22) | アウトプットの権利がユーザに移転するか | 知的財産に関する条項 |
| B-6 アウトプット処理成果(p.23) | ユーザがアウトプットを加工した成果の特定、利用、外部提供、権利帰属 | 利用規約、開発契約 |
本体の後の第4章では、項目をまたぐ留意点が説明されています。
- 4.2 インプット提供:インプットが汎用的なAIの学習に使われる場合、ユーザへのサービス提供に必要な範囲でだけ学習に使われる場合、学習に使われない場合に分けて対応を示しています
- 4.3 開発型:開発型契約でのインプットとアウトプットの扱い
- 4.4 個人情報保護法:個人データの提供が、委託と第三者提供のどちらに当たるか、外国にある第三者への提供に当たるか
- 4.5 セキュリティ:対象システムのセキュリティ水準、監査条項、ログの保存
- 4.6 規約改定:ベンダが規約を変更する場合の扱い
個人データを入力する予定がある場合、4.4の判断は法令の解釈に関わります。チェックリストを読んだうえで、法務に判断を依頼してください。
チェックリストが扱わない条項
チェックリストが主に取り上げているのは、データの扱いとリスクの分担に関わる条項です。公式資料は、AIサービスに関する保証・補償条項、責任限定条項、解除条項、準拠法・紛争解決条項などは取り上げていないものの、十分に検討することが望ましいとしています。また、内容は国内法を前提にしています。チェックリストの項目を一通り確認しても、契約全体の確認が済んだことにはなりません。
チェックリストの使い方
チェックリストは、契約書や利用規約と並べて読むと使いやすくなります。進め方の一例です。
- 自社の契約が利用型か開発型かを決め、読む範囲を決める
- AIサービスに入力する予定の情報と、受け取る生成物・成果物を書き出す
- 表の各分類について、利用規約や契約書の該当箇所を探し、読み取った内容を確認メモに書く
- 判断に迷った項目と、規約では変えられない点への運用上の対応を、法務と相談する
例1:生成AIサービスの法人プランを導入する(利用型)
営業部が、社内会議の議事録の要約に生成AIサービスの法人プランを使いたいと申し出た場面を考えます。情シスの担当者が利用規約を読み、次のような確認メモを作ります。条番号と規約の内容は架空の例です。
| 分類 | 規約の該当箇所 | 読み取った内容 | 対応 | 法務に確認すること |
|---|---|---|---|---|
| A-3 使用・利用 | 第○条(データの利用) | 法人プランでは入力内容を学習に使わないと書かれている | 管理画面の設定も確認し、画面を保存する | 規約と設定画面の内容が一致しているか |
| A-4 外部提供 | 第○条(委託先) | サービスの運営を委託する先へ提供する場合があると書かれている | 顧客情報は入力しない運用で始める | 委託先の所在国を確認する必要があるか |
| B-3 使用・利用 | 第○条(出力の利用) | 生成物の商用利用は認められている | 社外向けの資料に使う場合の確認手順を社内で決める | 利用条件や第三者の権利について判断に迷う点 |
| 4.6 規約改定 | 第○条(規約の変更) | 事前に通知したうえで変更できると書かれている | 通知の受け取り先を情シスの共有アドレスにする | 不利な変更があった場合の扱い |
利用型契約では、規約を交渉で変えられない場面が多くなります。その場合は、チェックリストの「事実上取り得る対応」が参考になります。たとえばA-3では、サービス提供以外の目的で利用される可能性があるなら不必要な情報を提供しない、という対応が示されています。入力する情報を絞る、設定で学習利用を止める、といった運用側の対応を選び、確認メモに残します。
どの情報を入力してよいかを社内でどう決めるかは、生成AIの社内利用ルールの作り方で扱っています。
例2:問い合わせ対応AIのカスタマイズを委託する(開発型)
自社の問い合わせ対応に使うAIチャットボットを、開発会社にカスタマイズしてもらう場面です。類型2のカスタマイズ型に当たります。
カスタマイズ型では、開発会社は自社に対しては「ベンダ」ですが、基盤モデルを提供する事業者に対しては「ユーザ」になります(公式資料の図7)。自社と開発会社の契約で入力情報の扱いを決めても、開発会社が使う基盤モデルの規約で別の扱いになっていれば、その条件も影響します。開発会社には、基盤モデルの規約で入力情報がどう扱われるかを説明してもらいます。
開発型で特に確認したいのは次の点です。
- B-1:納品される成果物の範囲が、契約書や仕様書ではっきりしているか
- A-6:自社の問い合わせ履歴から作られた学習用データを、開発会社が他の用途に使えるか
- B-5:チャットボットの設定やプロンプトなど、成果物の権利がどちらに帰属するか
開発を委託する前に、委託先のセキュリティ体制として何を確認するかは、AI開発委託のセキュリティチェックで紹介しています。
委託先がAIを使う場合の確認に応用する
業務の委託先が生成AIを使う場合、委託先と生成AI事業者の間の契約は自社から見えません。チェックリストの入力情報・生成物・外部提供の分類は、委託先に何を尋ねるかを決める手がかりになります。入力してよい情報や再委託先での利用など、具体的な確認項目は委託先のAI利用を確認するチェックリストで紹介しています。
マモリスでできること
マモリスは、契約書の内容を判定したり、法的なリスクを評価したりするものではありません。社内の利用申請や委託先への確認を設問にして依頼し、回答・添付資料・差し戻しの経緯を残す用途で使えます。
- 「学習に使われない設定か」などの設問を選択式で作り、備考欄に補足を書いてもらえます
- 利用規約の該当ページや設定画面の写しを、ファイル添付で回答してもらい、確認の記録として保管できます
マモリスは、Excelやメールでやり取りされていた
チェックシートの登録、配布、回収、管理を
すべてオンラインで完結させるクラウドサービスです
無料・登録不要・約3分
チェック運用の状況を診断します
委託先やSaaSのAI利用は、「使っているか」を聞いて終わりではなく、その回答を確認し、記録に残すところまでで一区切りになります。
自社の確認がどこまで追えているかは、10問の診断で見当がつきます。登録は不要で、結果はその場で表示されます。
よくある質問
Q1. チェックリストに沿って確認すれば、契約上の問題は防げますか?
防げるとは限りません。チェックリストは契約時に確認したい項目を示した資料で、保証・補償や責任限定など、取り上げていない条項もあります。実際の条項の判断には、法務担当者や専門家の確認が必要です。
Q2. AI事業者ガイドラインとは何が違いますか?
AI事業者ガイドライン(第1.2版)は、AIの開発者・提供者・利用者が取り組む事項を示した文書です。一方、契約チェックリストは、AIサービスの利用・開発に伴う契約で確認したい項目を示す別の資料です。相手先がガイドラインに沿っていると説明していても、インプットやアウトプットの扱いが契約でどう定められているかは別に確認します。
Q3. チェックリストに従う法的な義務はありますか?
チェックリストは法令ではなく、従う義務はありません。ただし、このチェックリストに沿って確認しただけで、個人情報保護法などへの対応が完了するわけではありません。入力する情報やサービスの取扱条件を踏まえ、法令上必要な対応を法務と確認してください。
Q4. 利用規約に同意するだけのサービスでも使えますか?
使えます。チェックリストは、汎用的なAIサービスを使う利用型契約も対象にしています。規約を交渉で変えられない場合は、各項目の「事実上取り得る対応」を参考に、入力する情報や設定など自社側で選べる対応を決めます。
参考情報
本記事は、以下の一次情報をもとに作成しています(2026年10月13日確認)。
