新しいシステムを検討するとき、「Excelなら追加費用がかからない」という判断は、それ自体は自然なものです。Excelをすでに利用している会社では、チェックシート業務を始めるための追加ライセンス費用が発生しない場合があります。ただし、Excelファイルをメールで配布・回収し、別の台帳で提出状況を管理する運用には、人の時間がかかります。この記事では、この運用を例に、作業時間を人件費として試算する方法と、システム料金と比較するときの注意点を解説します。
「Excelは無料」が指しているのはソフト代
「Excelは無料」という言い方が指しているのは、正確にはソフトの追加費用です。すでに必要な利用者分のライセンスを導入していれば、チェックシート業務のためだけにライセンスを買い足さずに済む場合があります。稟議書の追加費用欄にゼロと書ける道具は、それだけで選ばれやすくなります。
一方、Excelファイルを配り、回収し、確認する業務には、回答する側と集める側の両方に時間が発生します。ソフト代がかからないことと、運用に時間がかからないことは、別の話です。
チェックシート運用の時間を試算してみる
30人のスタッフに週1回チェックシートを提出してもらう場合を例に、時間を数えてみます。ここでは計算例として、時間単価を1時間あたり2,500円と仮定します。
回答する側は、ファイルを探し、記入し、メールに添付して送ります。集める側は、届いたファイルを保存し、名簿に提出済みのチェックを入れ、未提出の人に催促します。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 回答者の作業 | 10分×30人×52回 | 260時間 |
| 管理者の作業 | 1時間×52回 | 52時間 |
| 合計 | 260時間+52時間 | 312時間 |
| 人件費換算 | 312時間×2,500円 | 78万円 |
| 月平均 | 78万円÷12か月 | 6万5,000円 |
これは、頻度の高い週次チェックを想定した試算です。同じ条件で頻度だけを変えると、次のようになります。
| 頻度 | 年間総工数 | 年間金額 |
|---|---|---|
| 週1回(52回) | 312時間 | 78万円 |
| 月1回(12回) | 72時間 | 18万円 |
| 年1回 | 6時間 | 1万5,000円 |
年1回の確認であれば年間6時間、金額にして1万5,000円程度です。頻度が低い業務では、Excelでの運用が合理的だと数字からも分かります。
次に、312時間の内訳を、運用方法を変えても必要な作業と、変えられる作業に分けてみます。
| 作業 | 導入後も必要か | 短縮可能性 |
|---|---|---|
| 設問を読んで回答を考える | 必要 | 原則として小さい |
| 回答内容を入力する | 必要 | 運用による |
| Excelファイルを探す | 運用変更で不要になる場合がある | あり |
| メールに添付して送る | 運用変更で不要になる場合がある | あり |
| 回答済みファイルを保存する | 運用変更で不要になる場合がある | あり |
| 提出状況を別台帳へ転記する | 運用変更で不要になる場合がある | あり |
| 未回答者を確認して催促する | 作業自体は残る場合がある | 短縮の可能性あり |
| 回答内容を確認して判断する | 必要 | 原則として小さい |
現在の作業を項目ごとに分け、導入後も必要な作業と、運用変更によって短くできる作業を分けて測ることが、比較の出発点になります。
この78万円のすべてがシステム導入によって減るわけではありません。設問を読み、回答内容を考え、内容を確認して判断する時間は、運用方法が変わっても必要です。比較対象にするのは、ファイルの探索・添付、回収状況の集計、未回答者への催促など、運用方法によって変えられる時間です。
また、ここで算出した金額は、チェックシート業務に投入されている時間を金額に置き換えたものであり、そのまま現金支出の削減額になるわけではありません。運用時間が短くなった場合、その時間をほかの業務に使える余地が生まれる、という見方になります。
なぜこの時間は見えにくいのか
計算すれば出てくる数字なのに、ふだん意識されにくいのには理由があります。
第一に、業務単独の費用として表面に出ないためです。チェックシート業務のための追加料金が発生しない場合は、この業務の費用はどの帳票にも個別には現れません。作業時間は給与や人件費の中に含まれ、業務別のコストとして切り分けられにくくなります。作業時間は、各自の日常業務の中に分散しています。
第二に、一人あたりの負担が小さく分割されているためです。回答者は1回10分、担当者は週1時間。それぞれが「これくらいなら」と思える大きさに分かれているため、合計が意識されにくくなります。
これに対して、システムの月額費用は一つの数字として稟議書に載ります。見える月額数万円と、見えにくい年間の作業時間。この二つが同じ土俵で比較されないまま、「Excelなら無料だから」という結論になりやすいのです。
もう一つの見えにくい時間:後から説明するときの手間
作業時間のほかに、Excelファイルをメール添付やローカル保存で管理している場合、「後から追う時間」も発生しやすくなります。ファイルの破損や誤上書きで過去の記録が失われる場合や、監査・引き継ぎの場面で「誰がいつ回答し、誰が確認したか」を説明するために、過去のメールやファイルを掘り返す場合です。
この時間は毎月発生するものではないため試算に入れにくいのですが、発生したときの負担は小さくありません。委託先とのやり取りでこの負担が大きくなりやすい理由は、委託先管理システムとは?Excel台帳・チェックシートとの違いと選び方で扱っています。
比較するのは「料金の有無」ではなく「時間との差し引き」
ここまでの試算を踏まえると、システム導入の判断基準は「無料か有料か」ではなく、「運用方法によって短縮できる時間を人件費に置き直した金額と、システム料金との差し引き」になります。
システム導入後も、設問作成、回答内容の確認、判断などの作業は残ります。月額料金だけでなく、初期設定や移行、導入後の運用時間も含めて比較する必要があります。式にすると次の形です。
初年度の差引効果額
=(現在の年間工数 − 導入後の年間工数)× 時間単価
− 年間利用料金
− 初期費用
− (初期設定・移行工数 × 時間単価)
2年目以降は、原則として初期費用と初期設定・移行工数を除いて比較します。
試算の結果、短縮できる時間が小さいのであれば、Excelのまま続けるのが合理的です。人数が少なく、提出頻度も低い段階では、Excelで十分に回ります。逆に、回収と催促にかかる時間の金額換算が利用料金を明らかに上回っているなら、短縮した時間をほかの業務に使えるか、利用料金を含めても導入する意味があるかが、検討材料になります。
マモリスでのチェックシート運用
マモリスは、チェックシートの作成から、回答依頼、回収、確認、証跡保管までを一つの流れで扱うツールです。今回の試算に関係する部分では、回答者はログイン不要のURLから回答でき、Excelファイルを探してメールに添付する手順が不要になります。集める側は回答状況が一覧で見えるため、名簿と突き合わせて未提出者を探す手順が短くなります。回答・確認・差し戻しの履歴は残るため、後から説明するために、個別のメールやファイルを探す場面も減らしやすくなります。
どの程度時間が変わるかは業務の内容によるため、まずは自社の運用時間を試算したうえで、利用料金と見比べていただくのがよいと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. Excelのままで問題ないのはどのような場合ですか?
人数が少なく、提出頻度が低く、催促や集計にかかる時間が小さい場合です。短縮できる時間を金額換算して利用料金を下回るようであれば、Excelを続ける判断は合理的です。
Q2. 自社の試算はどのように行えばよいですか?
「回答者の1回あたりの所要時間×人数×年間回数」と「担当者の1回あたりの管理時間×年間回数」を合計し、時間単価を掛けます。時間単価には、自社で工数計算に用いている標準人件費単価を使います。給与だけで計算する場合と、会社負担の法定福利費などを含める場合では結果が変わるため、試算条件を併記してください。
Q3. 短縮できる工数を金額換算した結果より、システムの利用料金が高い場合はどうすべきですか?
時間面だけで見れば、Excel運用を続ける判断が合理的です。ただし、確認履歴や証跡の管理、引き継ぎのしやすさなども必要であれば、金額以外の条件を含めて判断します。
Q4. マモリスの利用で回答者側に費用はかかりますか?
マモリスでは、回答者向けのアカウント料金はかかりません。回答者はアカウント登録・ログイン不要で、URLから回答できます。
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チェックシート運用の状況を診断します
記事の話を自社の運用に置き換えると、どのあたりに当てはまるでしょうか。回答は集まっているか、集まったあとの確認まで追えているか、その記録が残っているか。こうした点を 10 問で確かめる診断を用意しています。登録は不要で、3 分ほどで終わり、結果はその場で表示されます。
