「ベンダーリスクマネジメント(ベンダーリスク管理)」「VRM」という言葉を、最近見かけるようになった方もいるかもしれません。委託先管理、取引先管理、サードパーティリスク管理など、似た言葉がいくつもあるため、何がどう違うのか分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、VRMとは何か、委託先管理との関係、実務としてどんなステップで進めるのかを、チェックシート運用の視点から見ていきます。委託先管理をめぐる制度の動きは、SCS評価制度で委託先管理はどう変わる?でも扱っています。
ベンダーリスクマネジメント(VRM)とは
ベンダーリスクマネジメント(Vendor Risk Management、VRM)という言葉自体は、日本の法律や行政ガイドラインで定義された制度名ではありません。一般には、ベンダー、サプライヤー、SaaS事業者、業務委託先など、外部企業から生じるリスクを把握・評価・管理する実務上の考え方として使われています。
内容としては、日本企業が従来行ってきた「委託先管理」「取引先管理」と大きく重なります。個人データの取扱いを委託する場合には、個人情報保護法上、委託先に対する必要かつ適切な監督が求められます。VRMという言葉を使うかどうかに関わらず、この監督義務は変わりません。VRMは、こうした委託先監督やサプライチェーンリスク管理を実務として整理する枠組みとして捉えると分かりやすいと思います。
この考え方は海外のリスク管理やサードパーティ管理の文脈で使われることが多い言葉です。国際的にも、NISTのCybersecurity Framework 2.0や、SP 800-161 Rev.1で扱われているサイバーセキュリティサプライチェーンリスクマネジメント(C-SCRM)など、外部委託先・サプライチェーンのリスク管理が重要視される流れがあります。
似た言葉に「TPRM(サードパーティリスクマネジメント)」があります。一般的には、VRMは自社に製品・サービスを提供するベンダーを中心にしたリスク管理として使われることが多く、TPRMは業務委託先や提携先なども含めた、より広い第三者を対象にする概念として使われることが多いです。ただし、この使い分けは会社や文脈によって幅があり、厳密に統一された定義があるわけではありません。この記事では、用語の違いよりも「自社の外部委託先や外部サービスをどう管理するか」という実務に寄せて説明します。
VRMと委託先管理、何が違うのか
結論から言うと、日本企業がこれまで「委託先管理」「取引先管理」として行ってきた実務と、VRMが指す内容は大きく重なります。
- 委託先を選ぶときにセキュリティ対策状況を確認する
- 契約後も定期的にチェックシートで状況を確認する
- 個人情報を扱う委託先については、より重点的に確認する
こうした一連の取り組みは、そのままVRMの実務と言えます。(社内チェックと委託先チェックの違いでも、社内向け・委託先向けの確認の違いを扱っています。)
VRMという言葉を使うことで、従来の業務委託先だけでなく、SaaSベンダー、外部サービス、サプライヤー、再委託先なども含めて、確認すべき範囲を整理しやすくなるという面はあります。
なぜ今VRMという言葉が使われ始めているのか
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向け脅威の2位に「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が挙げられています。発注元企業の内部対策だけでなく、委託先や外部サービスを含めたリスク管理が重要になっていることが分かります。国内のサイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver.3.0でも、ビジネスパートナーやシステム管理の運用委託先などを含め、サプライチェーン全体の状況把握と対策が重要な項目として示されています。
一方で、これまでは発注企業ごとに独自のやり方でチェックシートを作り、委託先へ送るというやり方が一般的でした。委託先の対応する項目や頻度がばらばらになりやすく、発注側・委託先側の双方に負担がかかります。VRMという言葉が使われ始めている背景には、こうした確認業務を、場当たり的な対応ではなく、継続的な仕組みとして整えたいというニーズがあります。
委託先が数社のうちは、担当者の記憶とExcelでも何とか回ります。ただ、これが10社を超えたあたりから、どの委託先にいつ何を送ったか、誰が回答済みかを把握するだけで時間がかかるようになります。30社、50社と増えていくと、担当者一人の記憶に頼る運用は破綻し、依頼の抜け漏れや、同じ委託先への重複依頼といった問題が起きやすくなります。
VRMを進める上で押さえておきたいステップ
委託先・ベンダーを一覧化する
まず、どの外部企業に業務やシステムを委託しているのかを一覧化します。SaaS、業務委託先、システム運用会社、開発会社、再委託がある委託先などを把握するところから始まります。
部署ごとに委託先の管理台帳が分かれていて、全社でどれだけの委託先と取引しているか、誰も把握していないという状態も珍しくありません。まずは部署をまたいで一覧化するところが、実質的な出発点になります。
リスクに応じて確認の深さを変える
すべての委託先に同じ確認をする必要はありません。個人情報を扱うか、自社システムやネットワークと接続しているか、業務停止時の影響が大きいか、再委託があるか、SaaSとして外部にデータを預けるかといった観点で、確認の深さを変えます。(取引先評価チェックリストとは?委託先管理で確認すべき項目と運用方法で、確認項目の具体例を扱っています。)
目安としては、個人データを扱う委託先には20項目程度の詳細な確認を、単純な備品発注先のような委託先には5項目程度の簡易的な確認を、といった具合に濃淡をつける考え方です。項目数はあくまで一例で、自社の取引実態に応じて調整する前提になります。
契約前・契約後・変更時に確認する
契約前の選定時、契約時、年1回などの定期確認、そして委託内容・再委託・SaaS利用・担当者・利用システムが変わったときに、それぞれ確認します。(委託先管理は年1回で足りる?AI・SaaS・再委託の変更確認を解説でも、この継続確認について扱っています。)
契約前の確認だけで終わらせてしまうと、契約後に委託先の体制が変わっていても気づけません。逆に、定期確認だけに頼っていると、契約期間中に起きた変更(担当者交代、再委託の追加など)を見落とすことがあります。複数のタイミングを組み合わせて初めて、状況の変化を捉えられるようになります。
確認結果を記録として残す
回答を回収するだけでは不十分です。誰が、いつ、何を確認したか、どの不備を差し戻したか、どのリスクを許容したか、最終的に誰が判断したかを履歴として残しておくことが重要です。
この記録が特に効いてくるのは、担当者が異動・退職したときや、委託先とのトラブルが起きたときです。「なぜこの委託先はOKとしたのか」を後から説明できないと、引き継ぎにも、社内外への説明にも困ることになります。
チェックシート運用の視点から見たVRM
VRMは、委託先選定、契約、リスク評価、継続的なモニタリングまで含む、実務としてはかなり広い考え方です。ただし、現場で特に負担になりやすいのは、チェックシートを使った確認業務の部分です。
Excelやメールだけで運用すると、最新版の管理、未回答の催促、差し戻し、判断履歴、証跡管理が難しくなります。チェックシートは「送って回収するもの」ではなく、「確認し、判断し、必要に応じて差し戻し、その履歴を残すもの」として扱う必要があります。
実際によくあるのは、委託先ごとにファイルが分かれ、担当者のPCやメールの中に散らばっていく状態です。半年前に確認した内容を探すだけで時間がかかり、未回答の委託先への催促は担当者の記憶頼みになります。差し戻しのやりとりもメールに埋もれ、最終的に誰が何を確認して良しとしたのか、後から追えなくなってしまいます。
マモリスは、VRM全体を代替するものではありません。財務リスクの評価、反社チェック、契約審査、法務審査などを網羅するツールでもありません。マモリスが扱うのは、このうちチェックシートを使った委託先確認の運用部分です。チェックシートの作成、回答依頼、回収、確認、差し戻し、履歴管理を扱え、委託先はアカウント登録・ログイン不要でURLから回答できます。繰り返し依頼や、前回回答をもとにしたプリセット設定にも対応しているため、年次確認や変更時確認を運用しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. VRMは日本の法律や制度で定められたものですか?
VRMという言葉自体は、日本の法律や行政ガイドラインで定義された制度名ではありません。ただし、個人データを扱う委託先については、個人情報保護法上の委託先監督が求められるなど、関連する法的要求はあります。
Q2. 委託先管理とVRMは何が違いますか?
実務としては大きく重なります。VRMという言葉を使うと、従来の業務委託先だけでなく、SaaSベンダー、外部サービス、サプライヤー、再委託先なども含めて整理しやすくなります。
Q3. TPRMとVRMは何が違いますか?
一般的には、TPRMの方が第三者全般を対象にする広い概念として使われることが多く、VRMはベンダーやサプライヤーを中心にした管理として使われることが多いです。ただし、会社や文脈によって使い分けには幅があります。
Q4. VRMでは何から始めればよいですか?
まず委託先・ベンダー一覧を作り、個人情報の取扱い、自社システムとの接続、再委託、SaaS利用、業務停止時の影響などでリスク分類するところから始めるのが現実的です。
Q5. マモリスを導入すればVRMは完成しますか?
完成するとは言えません。マモリスは、VRMの中でも、チェックシートを使った依頼・回収・確認・差し戻し・履歴管理を支援するツールです。
参考情報
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
- IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」
- 経済産業省・IPA「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver.3.0」
- NIST「Cybersecurity Framework 2.0」
- NIST「SP 800-161 Rev.1 Cybersecurity Supply Chain Risk Management Practices for Systems and Organizations」
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